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MG 30周年迎えた喫茶「MG」(松江市)―― 家族3人でスタート・不思議な縁広がる/山口 敦
 「店に入ったら『あっ、どうもどうも』って。昨日も今日も来たみたいに、あっちゃんはまるっきりいつもの調子なんだ。1年ぶりに会ったんだぜ」。転勤先から久しぶりに松江を訪れた関東出身の友人はこう続けた。「でも、それで松江に帰ってきたっていう気になった」。

 喫茶「MG」が開店したのは昭和44年。家業だった自転車屋を改装して、あっちゃんこと浅野淳子さん(51)、母親の多久和弘子さん(78)、弟の克行さん(50)の3人で始めたファミリー軒だった。

 「お客さんといろんな話ができる店を」と、当時、松江ではまだ珍しかったカウンターを店の真ん中に置いた。そのカウンターが代替わりし、コンクリートの床が板張りに替わったが、40席足らずのこぢんまりした店内はほとんど開店当時のまま。当初「3カ月でつぶれる」とも言われた店は今年、30周年を迎えた。

 4月、MGでは10月に控えた記念イベントの準備がすでに始まっていた。だがその日、あっちゃんは珍しく沈うつだった。古いつきあいがあったフォークシンガーの西岡恭蔵さんが死んだという。自殺だった。

 それから2日後、新聞各紙は顔写真入りでいっせいにその死を報じた。なかには特集を組んだ社もあった。各紙の訃報(ふほう)を斜め読みしながら、記者として自分で記事にできなかったニュース感覚が恥ずかしかった。と同時に、あまりに悲しい形ではあったけれど、MGの確かな人のつながりを改めて実感させられた。

 10月、30周年記念イベントは予定通り、松江市内のホテルを借りて盛大に行われた。高校時代にMGに通い詰め、“卒業”していった俳優の佐野史郎さんやギタリストの山本恭司さんらも参加したライブやパーティーに約300人が参加した。開店当初「客は友達だけ」だったMGで、ゆっくりゆっくりと広がった不思議な縁は、小さな店にはとても収まり切らならないほど大きくなっていた。

 「それこそ盆も正月も一緒に来たようだった」という一大イベントから1カ月あまり。「30年たって最初に思い描いていたような店になってる?」と、あっちゃんに聞いてみた。

 「だいたいなってるよ」。カウンター越しにいつもの笑顔が返ってきた。
 30周年を記念してMGが刊行した「Eternal Notes」(永遠のノート)には、亡くなった西岡さんが死の直前に寄せた原稿も収められた。

 「MG30周年。すごいなあ〜、と思う。これからもできるだけ永くMGを続けてください。30年後のMGで、誰かが唄ってたりして…」。遺稿はそう結ばれている。
★1999年11月14日付け「産経新聞」山陰ウォーキング(松江支局 山口敦)

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